メディアとのつきあい方学習への招待
第3回 メディつき学習を「深める」ために
佐藤正寿先生(岩手県奥州市立水沢小学校教諭)
×松橋尚子先生(東京都世田谷区立砧小学校主幹)
価値観の違いを
容認できる子どもに
──それでは、単なる「気づき」に終わらないようにするためのポイントを教えてください。
松橋「メディアは私たちにいろいろな影響を与えますが、一人ひとり、影響のベクトルが違いますよね。価値観がものすごく多様なんです。例えば、食事中に携帯電話を傍らに置いておくことについて、どう思われますか?」
──食事中の通話やメールとなると、あまり感心しませんね。
松橋 「それも1つの価値観です。でも、家族の1人が入院している家庭の食卓だとしたらどうでしょう。病院内の公衆電話からの連絡を心待ちにしているのかもしれません」
佐藤「それに、お父さんが新聞を読みながら食事をしている家庭で、メールはダメと言っても説得力がないですよね(笑)」
──まさにケースバイケースですね。
松橋「そうです。そうしたマナーに関することを考える場合、私たちはどうしても正解を探してしまいがちです。でも、立場によって正解は違う。テレビを見ながらの食事がすでに当たり前となっているように、食事中のケータイもほとんどの人が許容する時代がやってくるかもしれません。いろいろな考えがあって、それぞれに理由があるということを理解すること。そして、それを認めること。自分の考え方を相対的に見つめること。そこがポイントです」
佐藤「そして、子どもたちの実態をしっかり把握することもポイントですね。松橋先生がお勤めの東京都心では切実な問題である携帯電話も、私が勤務する岩手県の学校ではまだそれほどの問題ではなく、むしろ固定電話でのトラブルの方が無視できない存在だったりします。子どもたちの実態に即したメディアを取り上げ、つきあい方を学ぶ。その基本点がズレていると、子どもたちはメディつきを体感することができません」
気軽に踏み出せる
はじめの一歩
──どうすれば子どもたちの実態を把握できるのでしょう。
松橋「本当に基本的なことですが、子どもの日常をよく見ることですね。今回、私は『電子メールと個人情報』という実践を担当しましたが、これも、インターネットに触れていない子どもに対して行ったところで、あまり効果はありません」
佐藤「世の中の流れはとても速くなっています。ですから子どもたちに対して、このぐらいの年齢だからこの程度の知識や興味だ、と決めつけないことですね。目の前の子どもの様子をよく見て、指導要領そのままの指導でよいのか、教師自身の中でよく消化すること。子どもの見方が一方的になっていないか、多角的なものの見方ができているか、しっかり見つめることが大切です」
──メディアに対しても、子どもに対しても敏感でいることが大切なんですね。
松橋「はい。そうすることで、今、本当に必要とされている授業の形が見えてくるはずです。その上で、子どもたちが多様な価値観を見いだし、他人を許容できるように導くことができれば、『深める』につながるのではないかと思います」
取材/西尾真澄 撮影/西尾琢郎