情報モラル教育を急げ!
山形市立東小学校の実践事例「保護者との連携で育てる情報活用の実践力」に関連して、読者の方より同事例の研究論文をいただきましたので、掲載します。実践の効果が具体的データで示されています。みなさまの情報モラル教育に、ぜひお役立てください!
親子で学ぶ情報モラル学習プログラムの開発
〜実践により得られた親と子の情報モラルに対する意識の変容〜
上越教育大学大学院学校教育研究科学校教育専攻 和田 泉先生・井上 久祥先生
小学校5年・6年 :総合6時間
1. はじめに
急速な高度情報化社会が進み、インターネット利用に関わる事件が年々増加している。そこに子どもたちが巻き込まれるケースが後を絶たない。その上携帯電話の普及により被害は拡大している。2004年10月には文部科学省は児童生徒の問題行動対策重点プログラムの柱の1つに「情報社会の中でのモラルやマナーについての指導の在り方」を掲げ、国としても深刻な課題であるという認識を強めている。2002年実施の新学習指導要領から学習場面でのコンピュータや情報通信ネットワークの活用が示され、それに伴い、情報の「影」を学ぶ必要性が生じてきた。「ネット社会の歩き方(IPA,CEC2001)」や「情報モラル研修教材2005」(JAPET2005)などの教材も開発され、また実践例も多く報告されるなど、学校現場での情報モラル指導の意識は高まっている。
しかし、家庭でのインターネットの利用の仕方は家の環境や親の考え方によって千差万別である。キッズgooによる調査によれば、家でインターネットを利用している小学生のうち、利用上のルールがあったのは52%、半分近くの子どもは家で自由に使っているという実態が浮き彫りになっている。これはインターネット利用に関わる事件に巻き込まれる危険性があることを親が認識できていないことに起因していると言える。今後、子どもたちをインターネット利用に関わる事件の被害者や加害者にさせないためには、学校での教育によって子ども自身の態度を育成していくことはもちろん、親自身が情報モラルに関しての意識を持ち、家庭で働きかけていく必要がある。
近年、「親と子のための情報モラル教育の実践」(村田2002)のように生涯学習の一環として公民館で講座を設定したり、「親子で学ぶ情報モラル」(埴岡2004)のように小学校の特別活動の時間として授業参観を利用するなど、親子で学ぶ機会を取り入れた実践が報告されている。また、「インターネット・携帯電話の利用に関する家庭向け指導資料」(熊本県教育委員会2005)のような家庭の情報モラルの啓蒙を目的とした資料が作成されるなど、各都道府県の教育委員会や教育センターでも保護者を対象とした取り組みがなされつつある。さらに本研究では、「親子の関わり」を設定することにより、子と共に親の情報モラルへの意識を向上させることをねらいとする。
本研究の目的は小学校の高学年において、親と子で関わりながら共に学ぶモデルを構築し、情報モラルを学習するプログラムを開発することである。開発した情報モラル学習プログラムは実践を通しその有効性を検証する。
2. 親子で学ぶ情報モラル
従来、情報モラル学習の教材としては自学自習のモデルに基づくものが多い。シミュレーションやアニメなど
で子どもにもわかりやすく工夫され、情報モラルに関する知識を個人の理解に応じて学んでいくことができる。しかし小学生段階では、自学自習のみで内容を十分に理解するのは難しい。また教科の学習と違い、道徳的な側面の強い情報モラル学習は親や教師から社会的規範を学びとるという場面も多い。そのため学習の中に親子という関わりを取り入れることは子どもの情報モラルの学びの支援として効果的である。また同時に、親も子どもの学習に関わることによって、親として「子どもの安全を守る」という立場で情報モラルに対する意識を持つことができる。
2.1.親子で学ぶ学習モラル
親子で学ぶ学習モデルを図1に示す。流れは(1)〜(5)の通りである。
「補助資料」には下記の2 種類がある。A の活動紹介は、子どもの発言や活動写真をプリント資料にして伝えたもので、これにより授業の内容を親子で共有する。Bの補助資料は、補充的な情報を提供するもので、親の学習テーマの知識・理解を支援する。
図1:親子で学ぶ学習モラル