「作る」「調べる」2つの出発点からのプレゼン
「作る」「調べる」2つの出発点から取り組むプレゼン
〜「全国プレゼンテーションコンテスト」挑戦校の取り組み〜
広島県・広島大学附属東雲小学校
東雲小学校から、「全国プレゼンテーションコンテスト」に応募を予定しているのは2学級。 2年1組と5年1組だ。
2年1組の取り組みは、国語科の「おはなしだいすき」というテーマに沿って、いくつかのグループに分かれた子どもたちが、自分たちの力でオリジナルの物語を作り、それに合わせた絵を、パソコンのペイントソフトを使って描いたものを、それぞれクラスの友達に向けて発表するもの。
一方の5年1組は、社会科の「コンビニと私たちのくらし〜おいしい情報〜」をテーマに、経済社会の仕組みについて調べ、理解したことを、参観日に保護者に向けて発表するというものだ。
学年の違いはもとより、それぞれ創作と調査を出発点にすること、発表の対象も同級生と保護者と異なることなど、興味深い点が多い。
2年1組 「好き」からはじめる「作る」と「発表」
「好き」を大切に
2年1組は国語科の授業。担任の松園先生には、授業に先立ってお話を伺うことができた。
今回の授業の出発点は「好き」ということ。文字通り、お話が好きという気持ちを大切に、それを創作や発表に結びつけていくことを心がけているという。
今回の取り組みは、学級内でいくつかのグループを作って行われているが、このグループ作り自体にも、その姿勢が表れている。
お話を一緒に作るということから、グループ作りの方針は「同じものが好きな子」。
つまり、共有する「好きなもの」についてのお話を作ろう、というわけだ。いきおい、自分一人の「好きなもの」を持っている子どもは、複数人ではなく1人での作業となるが、それは可としている。
結果、40人のクラスに14ものグループができあがった。
お仕着せでなく、子どもたちが取り組める道を敷く
「子どもたちは、みんなお話が好きなんですが、いざ自分でそれを作るとなると、当然ながら、なかなか難しいものです」と松園先生。
「ですからまず、お話に添える絵を、始め絵、中の絵、終わりの絵、の3枚にすることにしました。これを骨組みにしてお話を作ることにしたのです」
今回のクラスは2年生。パソコンを使うのもほとんど初めてという状態だという。そうした中で、パソコンとお絵かきソフトを使う意義はどんなところにあるのだろうか。
「そうですね、一番いいところは、描いたものを、簡単に消せるということでしょうね。すぐに消せるからこそ、失敗を恐れないで、頭に浮かんだものをどんどん描いていける。子どもたちにはそれがうれしいんだと思います」
好きなものや好きな気持ちを、どんどんと絵にしていく、その絵に描かれた登場人物(動物?)たちが、子どもたちの「おはなし」を語り始めていくのかもしれない。松園先生の指導は、そうした子どもたちのまっすぐな気持ちを大切に伸ばしていくものなのだろう。
発表を「すること」と「聞くこと」
いよいよ授業の時間だ。今日は「はっぴょう会のリハーサル」。まだ、全部のグループのお話が完成したわけでないが、進度の速いいくつかのグループにリハーサル的に発表してもらい、それを材料にした学習を行おうというものだ。
「他のグループの発表を聞くとき、『すてきなところ』と『もっとよくなるアイデア』の2つについて考えながら聞くようにしようね。そして、発表が終わったグループの人に、それを教えてあげられるようにしてください」と先生。
いい聞き手になるための指導は、いい発表をする力を育てることにつながる。その逆もまた真なりだ。
早速発表がスタートされた。プロジェクターに接続されたノートパソコンから、絵を投影しながら、子どもたちの読み語りが始まる。
動物などを主人公にした、遊びや冒険の物語が中心だ。自分たちの物語が記された原稿用紙を手に、一心にお話を語ってくれるその姿は、緊張しつつも堂々としたものだった。
1グループの発表が終わるごとに、聞き手のクラスメイトからは、さまざまな意見が寄せられた。
「声がハキハキとしていて、よかったです」
「話し方が、『〜だよ』となっていたのが、かわいくて、よかったです」
「つなぎことばが少なかったので、もう少し入れるとよかったと思います」
授業冒頭に先生が話した、チェックの要点を押さえながらも、子どもたち自身の気持ちがこもった感想や、改善意見が次々寄せられる。
同時に印象的だったのは、同じような意見が他の子から出されたとき、発言しようと思っていた子は、声に出して「同じでした」と表明する指導がおこなわれていたこと。一人ひとりの子どもを集団に埋没させず、しっかり自分を表明させる指導が行われていることを実感した。
驚きの対応力
そして、この日最後に発表の順番を迎えた女の子3人のグループ。滑り出しはなめらかだったお話が、途中で急にたどたどしくなった。互いにめくばせをしながら話を続け、なんとか乗り切ったのだが、案の定、その後の意見交換で、他の子から、その点についての意見が寄せられた。
「もっとスラスラ言えるように練習しておくといいと思いました」
松園先生は、こうした聞き手からの意見を、出させたままにするのではなく、発表者側がどう受け止めたか、その都度確認して授業を進める。
「こういう意見があったけど、発表したあなたたちは、どうでしたか?」
ここで、驚きの事実が判明!
「私たちは、今日までにお話が全部原稿用紙に書けていなかったんだけど、みんなで頑張って、最後まで発表できてよかったです」
なんと! 中盤以降のお話は台本なしの即興だったのだ。あのめくばせは、正しくアイコンタクトだったというわけ。これには驚いた。
後ほど先生にお伺いすると、東雲小では「自立に向かう」ということを意識した指導が日常的に行われているとのこと。発表途中で原稿が途切れる(!)という事態に直面しても、動じることなく乗り切れたのは、こうした指導のたまものだろうか。
発表では事前の準備がもちろん大切だが、こうした「その時」の対応力も同じように大切なもの。一朝一夕に身に付く力ではないだけに、日頃の指導の大切さを強く感じさせられた。
授業の締めくくりに、松園先生は、今日の発表練習を通じて見えてきた、本番に向けて役立ちそうな工夫について、子どもたちの発言をていねいに引き出していった。しっかりと板書されたそれらのポイントは、今日の経験が、知識に変換されて、子どもたちの中に確実に根付いてゆくように思われた。