プレゼン指導 ここがポイント!
第5回 :プレゼン上手を知る・斬る(その4)
協力:プレゼン忍者太影こと中村武弘(なかむら・たけひろ)先生
[三重県教育委員会事務局研修分野研修支援室主幹兼研修主事]
グラフで見せる
フキダシでささやく
▲グラフとフキダシのセリフを組み合わせての明快な表現は、さすが太影先生!
スリムな情報 リッチな知見
米風)太影先生の得意技は、1枚の写真とか、ひとつのデータとか、そういう限られた材料から、いろいろな情報を引き出すことなんですよね。
魂風)まさに忍法だわね。太影先生が上手だなぁと思うのは、情報をやたらとたくさん出すのではなくて、聞き手のことを思いやりつつ厳選して、その中でプレゼンを進めているところかな。私はいつも伝えたいことがあふれて山盛りの発表になっちゃうからね。
米風)それは魂風先生の情熱のなせる技ですよ。熱いものって、絶対聞き手にも届きますから。
さて、パソコンの不調により動画再生が断念されたため、研究の対象になった授業の様子は太影先生の言葉によって聞き手に伝えられることになりました。
同じ学校、同じ学年でキャリアの異なる2人の教師が繰り広げた授業。両者に共通するのは使用したデジタル教材ですが、その実際の授業の様子や、生徒の受け止めには意外なほど大きな差が出たようです。
太影先生は、まず帯グラフを使って2つの授業を生徒たちがどう受け止めたかを示していきます。グラフを見る限り、大局的な肯定/否定の割合に大きな開きはありません。ただ、その回答の「重み」、すなわち「よい」のか「非常によい」のかといった程度の差において、両者の間にはかなりの違いが見て取れます。
こうしてグラフによって明示的なデータを示すと共に、その示すところについて、聞き手の頭の中に「?」を与えた先生は、すかさず次の手に出ました。
グラフ中の疑問点である肯定的評価の中でのニュアンスの違いを具体的に見せるために、グラフの上にフキダシの形で自由記述のコメントを表示させたのです。
こうしたテクニックは、数値データ分析(データマイニング)の横糸に、自由記述データ分析(テキストマイニング)の縦糸を絡めた表現を、もっともシンプルな形で応用したものと言えるかもしれません。これも太影流忍法のひとつなのでしょうか。
学問と実践の間に
なぜ? どうして?
魂風)ところで、このプレゼンのタイトルって 「教員研修カリキュラムの作成」だったよねぇ。
米風)そうですね、でも……。
魂風)この学校で今までどんな研修が行われてきたのか、分析を経てどんな研修を行ったのかがよく分からなかったね。
米風)確かに。研究目的として「教師に求められる力を明らかにする」というお話はありましたけど、それが発表タイトルのカリキュラム作成にたどり着けていなかったような印象があります。
魂風)大切だという授業力のあるなしをどう判定するのか、またそれを高めるのにこんな研修カリキュラムを提案しますとか、そういう肝心の部分がちょっと具体性に欠けたかなぁ。
ここから先は、学会発表という舞台で、研究結果という形の締めくくりをするため、実践にあたった教師の能力を詳細に項目分けし、それぞれが身についているかの検討を行うなどの論証が進められていきました。
デジタルコンテンツ教材を生かすも殺すも、つまるところ教師の基礎的な「授業力」にかかっているという分析結果が導かれ、研修の計画や実施にあたっても、そうした力を向上させるべく配慮すべきだと先生は主張します。
個々の研修テーマにかかわらず、生徒の現状を把握する力をベースにした授業スキルや、教科そのものへの理解などをさらに向上させるという視点が欠かせないことを述べた上で、それが個々の教師、教科にとどまらず、学校ぐるみで展開されていくことの重要性を訴えて、太影先生のプレゼンは終了したのでした。