プレゼン指導 ここがポイント!
第3回 :プレゼン上手を知る・斬る(その2)
協力:プレゼン忍者太影こと中村武弘(なかむら・たけひろ)先生
[三重県教育委員会事務局研修分野研修支援室主幹兼研修主事]
プレゼンは独立した「ワザ」にあらず
富山県富山市立熊野小学校教諭。
ネットワーク活用を通じたコミュニケーション能力の育成を提唱した研究・実践を続けている。中でも「『青い目の人形』を活用した交流学習における情報活用の実践力の育成」については数多くの場で取り上げられ、主催するWebサイト(http://www.aoime.net)ではその成果やカリキュラムモデル、教材についての情報が惜しみなく提供されている
前号でお届けした「プレゼン上手を知る・斬る」は予想外の好評をいただきました。どうしても抽象的な表現にとどまりがちなプレゼンのノウハウを、実際に行われたプレゼンを題材に具体的な手法として取り出してみようという試みをご支持いただけたのかも知れません。うれしいことです。太影先生も「忍者冥利に尽きる話ナリ」と申しております。
とはいえ、プレゼンとはそもそも、それだけが独立して存在する「ワザ」ではなく、そこで取り扱うテーマの豊かさと、そのテーマが聞き手といかにマッチしているかに大きく影響されるものです。ですからこのコーナーでは、これからも豊かな「中身」を持ったプレゼン上手の方々に大いに斬られていただくことで、読者の皆さんのお役に立てればと思っております。
さて、今回は「プレ斬り」第2弾として、富山県富山市立熊野小学校の深井美和先生のプレゼンを取り上げたいと思います。深井先生はコミュニケーション能力の育成に重点を置いた共同学習の研究・実践に励むかたわら、その取り組みの成果と魅力を表情豊かなプレゼンを通じて各地に広めていることで知られています。
その深井先生が、去る3月21日、NPO法人・学習創造フォーラム主催のシンポジウム『映像とコミュニケーションで育む学ぶ力』において行ったプレゼンが今回の教材です。持ち時間なんと5分(!)で自らの実践について語るというこのプレゼン。紹介する実践のテーマそのままに『伝えたい!あったらいいなこんなもの』と題された凝縮のパフォーマンスは、プレゼン忍者太影の目に、どのように映ったでしょうか。
自分の立ち位置を明確に
▲かわいい子どもたちの姿がプレゼンの方向性やイメージを印象づけていく
プレゼンは存在感である
本文の冒頭にもあったように、プレゼンとは独立した「ワザ」のことにあらず。自分の存在に合ったプレゼン内容というものがあるものだ。今回のように、イベントの中でのプレゼンということになれば、さらにその中で、自分の立ち位置や役割を見きわめることが必要。深井殿は、およそ他のパネラーの話を聞いていないだろうと思われるのに、さも聞いているかのようなふりをしつつ、しかも直感的に自分のポジションを把握してしまっているところがスゴイ。
スターと呼ばれる人たちが、自然と舞台での立ち位置を持っているように、深井殿の存在感は、もうスター級なのだ。
根が臆病であろうと、ひとたび舞台に登れば度胸がすわるのがスターというもの。自分の出番までは硬くなっていたように見える深井殿だが、いざ出番となればとたんに余裕や風格を感じさせる。やっぱりスターなのだ。
「かわいい2年生」「かわいい子どもたち」と「かわいい」を連発するイントロは、このプレゼンのポイントでもある「低学年の鍛え」とスターたる自分のプレゼンの「つかみ」とをオーバーラップさせる見事な戦略。同時にこれは予想されるツッコミに対して「低学年」を前面に押し出した「盾」にもなっている。スター、抜け目なし!
今回の深井先生のプレゼンは、3人の実践者が発表する実践紹介に3人の研究者がツッコミを入れるというユニークな体裁のパネルディスカッションの中で行われました。「映像とコミュニケーションで学ぶ力をつけるには?」と題されたこのディスカッション、限られた時間と多くの登壇者という構図は、プレゼンを行うにはなかなか困難な設定。深井先生の表情も緊張気味に見えます。
3人の実践者の内、最後に出番を迎えた深井先生。マイクを握るや、先ほどまでの表情はどこへやら、会場を見渡しながらいきいきと語りはじめました。
プレゼン冒頭、自身の担任学級が2年生であることに触れて「今日はかわいい2年生の実践を例に紹介したいと思います」と切り出します。続いて実践のテーマについて「『伝えたい!あったらいいなこんなもの』という国語の単元のお話です」と明瞭簡潔に言い切ってしまいました。
当たり前のことのように感じますが、とかく前置きが長くなりがちなプレゼンにおいて、本当に必要なことだけを述べて本論に入っていくのはなかなか難しいものです。
プロジェクターが投影するプレゼンシートの表紙には、取り組みを通じて子どもたちが作った作品が、そして続くページには、自分で描いた絵を手にして何やら発表する子どもたちの様子が映し出されています。
「これが、私のクラスのかわいい子どもたちです」
満面の笑みで語る深井先生。プレゼンはいよいよ本論に進んでいきます。