プレゼン指導 ここがポイント!
第2回 :プレゼン上手を知る・斬る
協力:プレゼン忍者太影こと中村武弘(なかむら・たけひろ)先生
[三重県教育委員会事務局研修分野研修支援室主幹兼研修主事]
プレゼン指導が目指す先
滋賀県大津市立瀬田小学校教諭。
95年に大津市立平野小学校で100校プロジェクトに参加。以降新100校プロジェクト、瀬田小学校ではEスクエアプロジェクトにも積極的に参加し、多くの実践を重ねてきた。現在はとくに情報モラルを中心とした教材開発や実践に力を注いでいる。
前号の連載第1回では、プレゼン指導にあたって、ともすれば見失いがちなポイントについてお話ししました。いわば入り口のお話です。
今回は、ガラリと視点を切り替えて、プレゼン指導を通じて子どもたちのプレゼンをどう高めていこうとするのかについて考えてみたいと思います。
例えば鉄棒なら、逆上がりというワザができるようにする。算数なら、かけ算九九がそらで言えるようにするといった明確な目標があります。ところが、プレゼンではテーマも、またそれを行う相手もその時々に変わる中、ハッキリとした目標を持つことはとても困難です。ですが、だからといって目指すものがなくていいということにはならないでしょう。少なくとも指導にあたる先生には、子どもたちを導くための方向性と、その導きを可能にする「ツッコミ」の力が求められるはずです。
そこで今回は、名人上手と言われる、教育界のプレゼン達人の実際のプレゼンを教材に、それがどうして「よい」のか。そしてそれでも「ここはもっとよくなるんじゃない?」というポイントはないのか。そんな目で見つめていくことにしたいと思います。上手なプレゼンのよい点を知った上で、よりよくできないかと斬ってみる。これは指導のシミュレーションにもなるはずです。
今回その「斬られ役」をつとめていただくのは、滋賀県大津市立瀬田小学校の石原一彦先生です。石原先生は先進的な情報教育の実践者であり、多くの講演などを通じてプレゼンの達人として知られています。その石原先生が、昨年11月に開催された第30回全日本教育工学研究協議会全国大会で行ったプレゼンを教材として取り上げさせていただくことにしました。そのテーマは『学習指導で情報モラル・著作権意識をどう育てるか』についての事例報告です。
自分と自分の視点の素描
1)つかみはOK!
石原先生が壇上に立ち、話が始まった瞬間から石原ワールドに引き込まれる。その力は語り口、身ぶり、表現すべてがかもし出す「関西風アトラクションワールド」へのいざないによって演出されていると見た。
「どうして普通の公立学校でここまでできるのか!」 「小学生なのにここまでやるか!」と聞き手に思わせずにはいない、迫力あふれるキャッチフレーズが手裏剣のように乱れとぶ。
情報教育が対機械から対人間の教育へと移り変わった結果、情報教育の実践者が「重い十字架を背負った」という表現は、情報教育に携わる聞き手の腹にズシリ!と響いてくる。
2)ウェルカム・トゥ・石原ワールド
上記「重い十字架」もそうだが、こうした独特の言葉遣いで、いつの間にか「ワケが分からないけど、なるほど〜」という石原ワールドの住人にさせられてしまう。
事の大小を問わず、要所を刺激的なキャッチコピーで締め、相手をうならせるテクニックは天才的。この「平成の大号令」もその一言で、これから始まる「すごいこと」への期待をかきたてられてしまう。
さらに、他の追随を許さないと思わせる行動力を幾多の写真やビデオによって相手に刷り込んでいくのだ。うーむ、やるなお主!
▲要所要所で「十字架」「放逐」などといった刺激的な言葉をちりばめ、しかもそれを淡々と語ることによって聞き手をぐんぐん引きつけていくのが石原流「つかみ」の技術。
プレゼンとは、聞き手とのコミュニケーション。そのことを強く感じさせられるのが、石原先生のプレゼン序盤の展開。せわしなく資料を配付し、少し早口の関西弁でおもむろに語り始めます。
まずは自身のバックグラウンドとして、情報教育への取り組みを始めた前任校でのインターネットとの出会いをざっくり描写。初期のネット文化が持っていた助け合いの精神を背景に、コンピュータ教育が機械と向き合うものから、ネットを介した他人との関係作りへと大きく変わった1)という認識を一気に概説。
そうした時代の変わり目に、信じる道をひた走った結果、周囲とのあつれきを生み、「追われる身」となったとドラマチックな状況描写をすることで、聞き手には理屈抜きの「すごさ」を印象づけてしまいました。
そうした窮地で下された文部科学省の情報教育推進の方針を「平成の大号令」2)と呼びますが、聞き手にはそれが福音のように感じられます。そしてその先で語られる実践への期待は、いやが上にも高まっていくのです。
小見出しの立った語り
3)禁句が魔法の呪文なり
「飛び道具」など教育の世界には似つかわしくない、または通常避けられるような単語をあえて結びつけることで「石原実践は何か違う!」という特別感を与える。つまり、見出しで聞き手との距離を一気に詰めて客観視させず、どんどん飲み込んでいくのである。これが「スゴイ」感の正体と見たり!
プレゼンはいよいよ本論へ。学校の情報インフラが整った上で、そこから何に取り組んでいくのか、というテーマについて「ユビキタス」「デジタルコンテンツ」という2つのキーワードを提示して語り始めました。
まず「ユビキタス」。マスコミでも語られることの多くなったこの用語ですが、耳慣れてはいても、実際のイメージはわきにくいもの。そこで、石原先生は具体的なアイテムを使った実践を取り上げると共に、それらに「見出し」をつけて語っていきます。
教室まで来たLAN回線と、子どもたちの机(学び)をどう結びつけるかは「ラスト10m問題」。これは情報通信業界で通信事業者の局施設とユーザー宅を結ぶ回線を指す「ラスト1マイル」になぞらえたもの。また、携帯電話を取り上げた授業では、それを「飛び道具」3)と呼んで、その効果の大きさやそれと裏腹の危険を端的に表現するなど、 新聞・雑誌も顔負けの見出しを連発。新しい概念や道具 立てをしっかりと印象づけていくのです。