プロに聞く 調べ学習のヒント
第4回 広告クリエーターが語る プレゼンテーションの極意
電通 第4クリエーティブディレクション局
企画書や資料には表れにくい 作品への気持ちや思いを語る
資料に対する考え方も同様。あくまで自分の言葉で語る際のツールとして捉える必要がある。
プレゼンテーションでは、全体の広告戦略を言葉や図、表で説明した企画書と、完成品に近い色彩・構成でイメージを伝えるカンプ、CMイメージを表現した絵コンテやビデオコンテを使って説明する。クリエーターによって手法の差はあるが、山田さんはプレゼンテーションの場での“語り”をもっとも重視する。
「企画書はなるべく端的にまとめて、それだけでは伝わらない部分を、実際に自分の言葉で話すことで表現するようにしています。重要なのは『なぜ、この企画を立案するに至ったか』という気持ちや思いを伝えることです。資料は少々、行きつ戻りつしてもかまいません」
子どもたちの発表は、制作物の説明に終始してしまうケースが多い。それよりも、「テーマを選んだ理由」「いかにして調べたか」「制作の過程で苦労した点」といった制作物には表れにくい部分を引き出すことで、子どもたちが生の声で語れるように導くことが大切だ。
そして、もうひとつ、自分の言葉で語るためのカギとなるキーワードがある。それは制作物に対する“愛”だ。山田さんは言う。
「自分の言葉で語るため、作品づくりに最大限の努力をし、自分の作品に誇りを持つことが前提となります。一生懸命に取り組んだという自信がなければ、生き生きとした発表はできません。私は自分たちの作品を我が子のように愛しています。制作の過程で手を抜いたり、自分の表現に嘘があると、プレゼンテーションは成功しない」
子どもたちには制作時に、その後のプレゼンテーションを意識させて、「本当に自信が持てる作品を作ろう」と呼びかけるのも一案。そのうえで、発表の際は、「作品の良いところ」「気に入っているところ」「自慢したいところ」をおおいに語らせるといいだろう。
熱い思いを自然体で表現 飾らない姿勢が生み出す説得力
インタビュー終了後、山田さんにプレゼンテーションの様子を再現してもらった。
実際にはプロジェクトチーム、クライアント企業双方から10人以上が参加するのが一般的。
「なかなか雰囲気が出ないんだけど…」と微笑みながら、語り始めた山田さん。
その声は、ついさっきまでインタビューに答えていたトーンと変わらない。それでいて、広告に対する熱意や愛情はしっかりと伝わってくる。
プレゼンテーションの五箇条
一、作ったモノに自信を持とう
一、リラックスした雰囲気を作るように心がけよう
一、全体の大きな流れをイメージしよう
一、作ったモノへの気持ちや思いを伝えよう
一、いつも使っている自分の言葉で発表しよう
よくプレゼンテーションは「大きな声と大きなジェスチャーが大切」と言われる。確かに、聴き手に届かないような小さな声や、棒立ちのままというのは良くないが、かといって大声や取って付けたようなボディランゲージは必要ない。
山田さんの説得力のあるプレゼンテーションを聴いていると、そのことがよく理解できる。自らの熱い思いを、誇張することなく自然体で表現しているからこそ、クライアントの共感を得ることができるのだろう。
ただし、広告のプレゼンテーションの場合、提案がすべて通るとは限らない。ビジネスである以上、クライアントの事情で実施されない部分も出てくる。山田さんは
「自分たちが真剣に考えてきたことを、素直に伝えれば、必ず誠意は伝わります。ビジネスという観点からは、提案が実現することが成功ですが、たとえひとりでも私たちの思いを理解してくれれば、信頼関係が深まり、次なるビジネスへの足がかりにもなります」
と力強く語る。
相手に理解と共感を得るためには、自分の言葉で語ること。シンプルだが、非常に難しいテーマだ。結婚式のスピーチや国会答弁を見る限り、日本の大人たちがもっとも苦手としていることのひとつと言えるだろう。
しかし、今後、国際社会を生き抜いていく子どもたちにとって、プレゼンテーション能力は必要不可欠なスキルだ。そのためのカリキュラムも年々充実。山田さんのように「プレゼンテーションが好き」と言える大人も増えてくるに違いない。
彼らが学校教育で学んだ“自己表現の手法”を駆使し、世界中を飛び回る未来もそう遠くないだろう。
山田さんが関わった広告:「Offilio」
エプソンが2002年11月に発表した、カラーレーザープリンタやスキャナなどオフィス向け周辺機器の新ブランド『オフィリオ(Offilio)』のポスター。山田さんは約20人のプロジェクトチームとともに、ブランド名の立案から、各メディアでの広告・CM制作までトータルプランに携わった。
(株)電通 第4クリエーティブディレクション局主管、広告プランナー。 大学卒業後、広告代理店に就職し、7年前に電通に入社。一貫してクリエーティブに携わってきた。現在は年間4本の大プロジェクトと、単発のCM制作を手がけ、幅広いジャンルで活躍している。
取材・文/元木哲三 撮影/堀内一正