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第4回 広告クリエーターが語る プレゼンテーションの極意
電通 第4クリエーティブディレクション局

これまで、「企画」「取材」「編集」の極意を紹介してきたこのコーナーも、いよいよ大詰め。
  最終回となる今回は、完成した作品を発表する際の「プレゼンテーション」のコツを学ぶ。

どんなに良い作品、良いアイデアであっても、聴き手に伝わらなければ意味がない。どうすれば、限られた時間の中で、効果的に伝えることができるのだろうか。広告会社最大手、電通のCMプランナーである山田まことさんに聞いた。

■国際化の進展で重要性を増す プレゼンテーション能力

日本人はプレゼンテーションが下手だといわれる。
  これは、私たち日本人がほぼ同じ文化の中で生活し、日常的な“共感”を基本に、かなり省略したコミュニケーションでも関係が成立する社会を形成してきたことが背景となっている。

「言わずもがな」「あうんの呼吸」といった感覚は、日本ならではの素晴らしい文化だが、グローバリゼーションが加速する現代、それだけでは通用しなくなっているのも事実。
  その意味でも、自分の意志を明確に表現し、相手に効果的に伝えるためのプレゼンテーションの手法を、子どもたちに早くからを学ばせておくことが重要になっている。

プレゼンは資料を見せながら…

子どもたちが自分で調べて完成させた制作物を、クラスメイトや保護者の前で発表する時間は、プレゼンテーション能力を養う絶好のチャンス。
  広告クリエーターとして数え切れないほどのプレゼンテーションを経験してきた山田さんに、その極意を聞く前に、まずはプレゼンテーションに至るまでの過程を説明しておこう。

まず、広告会社はクライアント企業から広告戦略立案の依頼を受ける。オリエンテーションを通して製品やサービスの概要、広告の開始時期、広告を打つメディア、全体の予算など大枠を決め、実際の制作に取りかかることになる。

最初に決めるのがコンセプト。いわばすべての広告戦略を立てるうえでの基本ルールだ。
  山田さんが手がけたエプソンのカラーレーザープリンタの新ブランド「オフィリオ(Offilio)」を例にとると、“発言するブランド”が基本コンセプトとなった。山田さんは
「業界に対して常に現状を打破するような革新的な新提案をしていくというイメージ。これを基にして、ビジュアルは現場の臨場感を表現できるもの、コピーはメーカーサイドからではなくユーザーの視点で現状に対して歯に衣着せぬ言葉を選ぶ、などといったアイデアが出てきます」
と説明する。

「オフィリオ」のプロジェクトは、山田さんが統括するクリエーティブ(制作)部門をはじめ、営業や外部スタッフで構成する総勢20人のチームで制作を進めた。全体のプランがまとまったら、いよいよクライアント企業に対するプレゼンテーションに臨むことになる。

■本質を伝えるためには 自分の言葉で語ること

プレゼンテーションは、その後の広告戦略全体の流れを左右する、いわば勝負のとき。これまでの苦労を成果に変えるための関門であるとも言える。 それだけに緊張が高まるが、山田さんは
「発表の場であることを意識するあまり、こちらが硬くなると、相手も構えてしまいます。私はできる限り、普段使っている言葉で話すようにしています。自分を飾ったり、使い慣れない言葉で話そうとすると、一番大切な自分の気持ちが伝わらないということに気づいたからです」
という。

時には資料を手にとって語りかける

時にはプレゼンテーションの冒頭に
「私は難しい言葉を使えませんので、ざっくばらんにお話ししたいと思います。みなさんもプレゼンテーションとは思わずにお聴きください」
と話して、リラックスした雰囲気を作り出すこともあるという。あえて難しい語句や専門用語を使わないことは、聴き手を意識することにもつながる。
「プレゼンテーションは広告に詳しくない人も参加するので、格好をつけず、誰にでも理解できる言葉で話すことを大切にしています」

山田さんは以前からプレゼンテーションが好きで、自分も技術を上げたいと、入社間もない頃から、先輩たちのプレゼンテーションを見て試行錯誤を繰り返してきた。技術の高い先輩の表現方法を、そっくり真似してみたこともあったが、どうしても上手に話せなかった。

「結局、借り物の言葉になっていたんでしょうね。自分の言葉で話せるようになったのは、つい最近のことですよ」

この“自分の言葉で語る”という姿勢は、山田さんが20年近い経験の中で導きだした究極の極意である。山田さんが語る「プレゼンテーションの極意」は、すべて“自分の言葉で語る”ためのノウハウと言うこともできる。

■作り込みすぎたシナリオは プレッシャーとなってのしかかる

プレゼンテーションを効果的に実施するためには、事前の準備が必要だ。
  与えられた時間内にどんなことを話すか。制作物をどのタイミングで相手に見せるか。大まかな流れをイメージしておく必要がある。

しかし、完全にシナリオを決めてしまうと、逆効果になることもある。山田さんは
「計算高く『この部分でウケを狙おう』などと考えたときに限って、空回りに終わります。また、話や資料の順番を細かく決めてしまうと、その通りに進めなきゃならないと考えてしまってプレッシャーにもなる」
と語る。実際、山田さん自身、若い頃にはシナリオを固めすぎて、失敗した経験もあるという。

「小さなメモ用紙に、台詞までびっしり書き込んでプレゼンテーションに臨んだことがありました。テーブルの上に置いて話し始めたのですが、文字が小さくて見えづらい。かといって、うつむいたままで話すわけにもいきません。戸惑っているうちに、頭が真っ白になって、言うべき言葉がすっかり飛んでしまった。決めた台詞だから忘れてしまうんですね」

全体の流れだけをイメージしたら、後は自然にまかせること。これも自分の言葉で語るための重要なポイントだ。