IT活用講座

プロに聞く 調べ学習のヒント

第2回 TVディレクターが語る 取材の極意
テレビ東京 報道局

事前の下調べは入念に 現場では柔軟な対応を

分厚い取材ノート

取材が決まったら、関連する情報をさらにリサーチ。新聞や書籍からインターネットまで、さまざまな情報源から関連情報を収集する。
  川名さんは「IT特集のときは、用語さえ知らない状態でしたから、辞書を引いたり、人に聞いたりしながら必死で勉強しました」と笑う。

 限られた時間の中で、充実した取材をするためには、下調べが欠かせない。もし、この作業を怠ると、実際の現場でちぐはぐな行動を取ってしまったり、時間切れになってしまう可能性が高くなる。
  「もちろん、いくら勉強しても完璧ということはないので、取材時に理解できない部分が出てきたら、『教えてください』と正直に頭を下げます。それでも事前にできるだけ知識を吸収しておきたい。これは相手に対する礼儀でもありますからね」

次に、下調べの段階で出てきた疑問点や、より詳しく知りたいポイントを抜き出し、質問項目をメモしておく。しかし、
   「実際に取材現場に赴くと、机の上で考えていたときには予測できなかったことが起こることも珍しくありません。逆に、そうしたシーンこそ面白いものになるんです。私は、現場で何か発見があれば、自分か決めた項目にとらわれず、どんどん質問するようにしています」
と、川名さん。取材の現場の状況に、柔軟に対応する心構えも充実した取材を実現するためのポイントだ。

わたしにもやらせてください! 体験してわかる本当の“気持ち”

取材風景

さて、アポイントを取り、十分な下調べで知識を得たら、いざ取材現場に出向くことになる。取材中は、どう伝えることができるかを常に念頭に置いておかなければならない。

川名さんは、「ある程度、完成形をイメージしておかないと、インタビューが的はずれな方向に進んでしまったり、必要となるシーンを見落としてしまうことにもなりかねません」と、プレゼンテーションの段階を意識しておく必要性を強調する。

また、川名さんは取材時に、実際に自分で体験してみることを心がけている。
  これは入社当時から、先輩に叩き込まれたことでもある。

沖永良部島でウミガメの姿を24時間インターネット中継している高校生の姿を取材に行ったときは、生徒たちと一緒に海に潜ってみた。

また、液晶パネルに使われているインジウムという鉱物を産出している、北海道の豊羽鉱山に取材に行ったときは、地下600mの作業現場に同行した。気温35〜40度、湿度90%という過酷な状況だった。

「実際に泳いでみると沖永良部島の自然の美しさが体感できますし、地下に行くほど地熱で温度が高くなっていく鉱山に、自分の足で入ってみてこそ、働いている人の苦労が身に染みてわかります」

川名さんは現在、製造業の特集番組を制作するために、東大阪の工業地帯を奔走している。

「日本の製造業はこれから何を担っていくのか、というテーマで現場を取材しているのですが、先輩から『ベルトコンベアで作業することがいかに大変か、実際に体験してこい』と言われました。取材先にお願いしてOKがでれば、すぐにでも作業を経験させてもらおうと思っています」

 

取材の五箇条

一、取材のねらい、自分が知りたいと思うことを
   しっかり持とう

一、誠意をもって、熱意をこめてお願いしよう

一、事前に十分な下調べをしておこう

一、質問は事前に考え、さらに現場でも

   どんどん聞こう

一、できるだけ実際に体験させてもらおう

取材する側が取材対象に共感していなければ、作品の受け手の共感を呼ぶことは難しい。また、自分で体験してみるとことで、取材対象者の目線に立ってみると、新たな発見があるに違いない。

川名さんは「例えば、小学生が八百屋さんを取材するのであれば、1時間でも手伝わせてもらえれば、すごく良い体験になるでしょうし、レポートの質はぐんと高くなると思いますよ」と微笑む。

このほかにも、取材の際の初歩的な心得として「取材時間に遅れない」「みだしなみに注意する」「取材前に自己紹介し、取材の目的をあらためて説明する」「失礼のない言葉づかいを心がける」「取材終了後にはきちんとお礼の言葉を述べる」などが挙げられる。

これらのことは、川名さんが取材をする上でもっとも重要なこととして挙げた「謙虚な姿勢」という言葉に含まれている。子どもたちに取材の方法を教える時間は、礼儀・礼節の大切さを伝える絶好の機会としても利用できるのではないだろうか。

川名真理さん川名真理さん

テレビ東京報道局ディレクター・記者。入社6年目。川名さんの番組制作チームは、制作ディレクターが3名と、金銭面や全体の流れを管理するプロデューサーで構成。この体制で70〜90分の番組を、年間4〜5本制作する。

「オレたちの時代がきた2」

2001年9月、テレビ東京系列で放送された報道特別番組「経済プロジェクト2001 ITスペシャル オレたちの時代がきた2」。ITに関わるさまざまな人々の姿を、緻密な取材で描いた。

取材・文/元木哲三 撮影/片桐圭
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。