新学習指導要領 〜教育新動向〜
学力の本質について考える
東京工業大学 教育工学開発センター教授 赤堀侃司(あかほり・かんじ)先生
八戸市教育委員会総合教育センター指導主事 戸来忠雄(へらい・ただお)先生
模倣から創造へ
〜学力は体験と感動が育む〜
戸来先生は現在、八戸市教育委員会の指導主事の職にあるが、元々は中学校の美術科教諭だった。その教諭時代の実践から体験主義に基づいた学習について具体的に説明していただいた。
縄文時代の遺跡に隣接するという学校の立地条件もあって、戸来先生が選んだのが縄文式土器をテーマとした実践だ。中学校の3年間に渡るこの実践では、1年生では縄文式土器そのものの模倣を行い、2年生は縄文式土偶を取り上げて、それらがなぜそんなにも特色ある姿に表現されているのかを推測しながら、現代版土偶を制作する。そして3年生は土器や土偶制作の手法を使ったオブジェの自由創作を行うという流れになっている。
まず、選択を伴う模倣(既存の土器から一つを選び出し、それを模倣する)からスタートして土器づくりを体験する。ここで模倣の対象を選ぶという行為は、生徒への動機付けと関連しているとみることができるだろう。
続いて、土器づくりの体験に基づいた考察によって、土偶の特徴的な形態について、その理由を考察する。これはオリジナルの土器を創造した縄文人の精神に迫るための試みだ。生徒自らが制作体験を経ているため、単なる見た目からの想像に終わらない考察の深まりを期待できる点が重要だ。
最終学年では、心情を表現するテーマで自分だけのオブジェを作る。単なる放任でなく、模倣と考察という土台の上にはじめて自由な創作という機会を与えることで、生徒たちの能力と創造性を引き出そうという学力の積み重ねを意識した実践なのだ。
この一連の取り組みを終えた生徒たちに詩や作文を書かせたところ、驚くほどにその心が成長していることが実感できたという。
「学びは「まねび」に始まるとは古来言われてきたことですが、まねをするだけでは学習になりません。模倣からスタートした活動が、感動を通じて自分の感性となるレベルまで達しなければ、子どもに力がついたとは言えないと思いますね。そうした見通しを教師があらかじめ持って授業に臨むことがとても重要です」と戸来先生。
「ある面での子どもの力の低下はそれを事実として認めつつ、単純に知識伝達の量的拡大に走るような対策に終わってはいけません。本当に不足し、その低下が憂慮されるのは、知識の受け皿としての《基礎基本》の力なのだという戸来先生の言葉には、多くを考えさせられました。今日はどうもありがとうございました」
赤堀先生は対談をこう締めくくった。
「学力のあるなしではなく、今何が足りないか、何が必要かという視点から子どもを見ることで、よりよい教育を実現していくことを提唱したいですね。教育の目的は子どものランク付けではなくて、子どもを伸ばし高めていくことなんですから」
赤堀侃司先生「体験から生まれる疑問や失敗や成功で、感性の壺を一杯にしてやること。その《貯める》プロセスをもっと大切にしていきたいですね。私の美術の授業における模倣という実践も、そんな手段の一つだと思っています」
戸来忠雄先生
あなたは見ましたか?PISA調査結果
記事冒頭で触れたPISA調査結果については、文部科学省ホームページでその抄訳と見解が閲覧できるほか、OECDホームページではレポート原文を入手することもできる。
2004年12月の発表当時の各種報道(これらは新聞社ホームページなどで検索可能)と見比べてみると、立場による見解の違いが読み取れて興味深い。
また、前回2000年の調査にあたって使用された問題文の一部が文部科学省サイトで公開されているが、これを見ると、単純なドリル学習などでは到底歯が立たない問題が多いことに気づくだろう。
ぜひともこれら実際の資料に触れて、自分なりに読み解いていただきたい。なお、(株)ぎょうせいからは国立教育研究所の編集による本件報告書が発行されている。
●文部科学省による2003年PISA調査のまとめ
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/04120101.htm
●PISA2000年調査問題例
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/index28_2.pdf
●OECDによるPISAホームページ(英文)
http://www.pisa.oecd.org/
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