達人に聞く プレゼンの極意
「死の谷」を越えるプレゼン
日本電気株式会社 基礎研究所
ナノテクノロジーTG 主任研究員・工学博士/ 川浦久雄さん
死の谷とは
川浦さんは、最先端のナノテクノロジー開発に挑戦する、気鋭の研究者だ。
そうした仕事だけに、川浦さんが行うプレゼンは、常に先端の技術内容を含んだものになる。そんな川浦さんが、プレゼンについて最初に口にしたのが「死の谷」だった。
物騒な表現だが、これは、プレゼンする側とされる側で、そのテーマについての理解度が大きく異なることを、川浦さん流に表現したもの。まず、この谷を越えなければ、プレゼンの内容は相手に伝わらない。
動機が聞き手をひきつける
そのために大切なことは何か、川浦さんは次のポイントをあげてくれた。
ひとつ目は、よく言われることだが、結論から話すこと。
プレゼンの目的とは、ある結論を相手に伝えることなのだから、それを冒頭に、ハッキリと相手に伝えることは大切なことだ。
その後、通常だとその結論に至る説明に入っていくわけだが、川浦さんはその前に「動機」を語ってみることを勧めてくれた。
「なぜ、このテーマに取り組んだのか、それを説明することで、聞き手に、問題意識を共有してもらうことができます。そうすれば、その後の説明についても、あたかも聞き手がその問題に一緒に取り組んでいるような気持ちで聞くことができるのです」
取り組みの先にあるもの
NEC筑波研究所は、国内に7か所ある同社の研究拠点のひとつであり、バイオテクノロジーやナノテクノロジーなどの先端技術研究を行っている。
そして組み立ての最後は、再度、冒頭の結論に到達するわけだが、そこで川浦さんは
「単に最初の結論を繰り返して終わるのでなくて、そこまでの取り組みを総括した上で、今後の展望について、しっかり語るとよいでしょうね。そうすることで、説明をした内容が、今後に向けてどのように役に立つのか、また、発展性があるのかを印象的に伝えることができます」
と話してくれた。完結した語りで終わるのではなく、広がりを感じさせて終わる。これは、未来ある子どもたちのプレゼンにもふさわしい締めくくりと言えそうだ。
身近な例えが生む「分かりやすさ」
インタビュー中にも、川浦さんは、プレゼンのツボをおさえることを「秘孔を突く」と表現するなど、実に豊富な例え話を交えて、楽しい説明をしてくれた。実はこれもプレゼンの極意のひとつだという。
「自分でこうだと思って説明したことでも、聞き手の一人ひとりの受け止め方は違ってくるものです。ですから、聞き手の方に合わせた身近な例えを、できるだけたくさん使ってみるといいですよ。相手がお子さんなら、アニメやゲームの話、という具合ですね」
伝わらないのが当たり前
プレゼンをする際の心構えとして、川浦さんが強調されていたのは、自分の主張は「伝わらないのが当たり前」ということ。
それを工夫によって乗り越えていくのがプレゼンなのだと考え、聞く人の気持ちを考えて、ありとあらゆる工夫をしてみる。そんなプレゼンなら必ず「死の谷」は越えられるはずだと、川浦さんはアドバイスしてくれた。
次につなげるための取り組み
最後に、プレゼン前後の取り組みについて。
川浦さんとその職場では、プレゼンにあたって、事前のプレビューと、事後の反省を欠かさないという。
プレビューは、聞き手の立場でのプレゼン内容のチェックとして不可欠であり、また反省は、本番での予想外の聞き手の反応への対応などをしっかり総括することで、次回に必ず活かされていく。
教育の場だけではなく、企業の現場でも(あるいは、常に成果を求められる企業の現場だからこそ)、こうしたプロセスが大切にされているのだと実感した。