22.09.30 一人ひとりの学力向上につながる「個別最適化」教育を
~公教育以外で学力を補うには、タブレット学習が有効~ 教育経済学専門 慶応義塾大学教授 中室 牧子 氏インタビュー

<子どもの学力向上につながる4つのポイント!>

  • “勘と経験”はもう古い。教育分野でも「根拠に基づく政策」を
  • 他の誰とも比較しない。「個別最適化」とは、一人ひとりにあった教育の提供
  • 子どもの将来に影響する「非認知能力」は幼少期の過ごし方で決まる
  • 「習慣形成」と未来への想像を促すことで、子どもの意欲をかき立てる

株式会社ジャストシステム(本社:東京都新宿区、代表取締役社長: 関灘 恭太郎)はこのたび、著書「『学力』の経済学」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を出版し政府の有識者会議で委員を務める慶應義塾大学総合政策学部教授の中室牧子先生にインタビューを実施しました。子どもに対してさまざまな教育方法や教材などがあり、どれを選択するべきなのか悩まれている保護者も多い中で、中室先生の教育経済学の考え方をお伝えします。

1. “勘と経験”だけではなく、教育分野でも「根拠に基づく政策」を

―中室先生は教育におけるデータ活用の重要性を訴えています。そもそもなぜ教育にデータを用いることが重要なのでしょうか。

アメリカのコロンビア大学大学院で教育経済学を学び始めました。その頃海外では、現場の教員や行政官の「勘と経験」に基づく教育から一歩脱却して、データや根拠に基づいて政策形成をするという「根拠に基づく政策形成」が浸透し始めていました。技術の進歩によって、私たちが入手できる「データ」は質・量ともに飛躍的に大きくなってきていますから、日本でもデータを活用し、根拠に基づいて教育上の意思決定をすることは子どもたちの教育を良くするポテンシャルがあると考えています。

―アメリカや他国に後れを取る形で日本でもエビデンスに基づく教育について議論されるようになったのですね。日本ではこの考え方がどう根付くとお考えになりましたか。

日本でも「根拠に基づく教育」は広く受け入れられる土壌があると思います。最近では、共働き世帯の割合が66%を超え、子ども一人あたりの教育費は景気動向に左右されにくく、一貫して増加する傾向にあります。つまり、子どもにかけられる「時間」と「お金」の両方に制約がある中で、どんな教育にどれだけの時間やお金を使うべきなのかということに悩んでおられる保護者は多いはず。多くの人が「この教育に時間やお金をかける価値があるかどうか」ということに悩んでいる状況のもとでは、それらの問いに正面から答えようとする「根拠に基づく教育」という考え方は共感を得られやすいと考えました。

2. 他と比較しない「個別最適化」、一人ひとりにあった教育で学力を伸ばす!

―「根拠に基づく教育」として有効であることが示唆されるのはどのような教育でしょうか。

教育の「個別最適化」が有効であることを示す研究が多く発表されています。端的に言うと、クラスの全員が一斉に同じことを学ぶのではなく、一人ひとりの習熟度に合わせて学ぶのがよいということです。私たちの研究室でデータ分析を担当している「埼玉県学力・学習状況調査」は、埼玉県下62自治体、約1100校の公立小中学校、小4~中3までの児童・生徒約30万人が受けている学力テストで、生徒の学習到達度が示されます。例えば、2021年の国語でいえば、最も高い学習到達度の児童・生徒と最も低い学習到達度の児童・生徒はいずれも750人程度(約0.3%)存在しています。つまり、0.3%の児童・生徒は飛びぬけて学力が高いのに対し、同様に0.3%の児童・生徒はかなり学力に課題がある状態だということになります。おそらく、彼ら彼女らの多くが、学校の授業は「ただひたすら座っているだけ」という状況に陥っているでしょう。学力の高い生徒は簡単すぎてつまらないでしょうし、低い生徒は授業についていくことができない。そこで、「個別最適化」が重要になってくるのです。平均点周辺の子どもだけに的を絞った教育ではなく、さまざまな習熟度の子どもに合わせて個別最適な学びを提供し、各々が新しいことを学ぶ喜びを知り、自分の能力を伸ばすことのできる教育が求められているのではないでしょうか。

3. 40歳の年収を左右する?「非認知能力」は幼少期に培う

―子どもの将来に大きな影響を及ぼすことが分かっている「非認知能力」について教えてください。

非認知能力とは、読んで字のごとく、学力テストやIQテストで計測することのできる「認知能力」に「非ず」(あらず)ということで、人々の社会性や性格などのことを指します。最近の経済学は、認知能力は、学校を卒業した後の人生の成功のほんの一部しか説明できないことを明らかにしてきました。例えば、個人の学力テストの変動は、個人の賃金変動の17%しか説明することができないし、IQの変動に至ってはたった7%しか説明できないというのです。では、何が将来の成果を説明できるのかというと、答えの1つが「非認知能力」でした。非認知能力が賃金に与える影響は、長期にわたって続きます。同一の個人を18歳から75歳まで一生涯にわたって追跡し続けたデータを分析した論文によれば、非認知能力が賃金に与える影響は、40~60歳の間で最も高くなることが示されています。中でもとりわけ「勤勉性」や「外向性」の影響が大きいということです。
非認知能力を「育てる」ことができるのか、というのは興味深い問いですが、最近では学校教育や家庭の中で非認知能力を育てることができることを示す研究が出てきています。しかし、非認知能力を育てることに成功している研究は、幼少期の子どもを対象にしたものが多いのが現状です

―多くの子どもが幼少期に過ごす保育所や幼稚園での教育が影響しそうですね。

保育所や幼稚園における教育の「質」が、子どもののちの学力や非認知能力に影響を及ぼすことを示す研究は少なくありません。その一方で、カナダのケベック州では、1997年に保育所の利用料が大幅に引き下げられましたが、その時の保育所利用の増加は、子どもらが10-20代になった後の非認知能力、健康、生活満足度、犯罪関与にマイナスの影響を与えたことが明らかになっています。特に男子に攻撃性や多動の問題が顕著だったそうです。つまり、質の保証がない保育所の拡充は、子どもたちの非認知能力に悪影響を与える可能性がありますから、待機児童問題が解消されつつある今、私たちが注意を払わなければならないのは、幼児教育の「質」だと思います。私たちの研究チームでは、3つの
自治体で認可保育所や幼稚園の「質」を計測しています。複数の研究者が半日をかけて保育所や幼稚園での活動を観察し、500近い項目に評点を付ける「保育環境評価スケール」という尺度を用いて幼児教育の質を計測していますが、幼児教育の質は、保育所や幼稚園によってかなり大きな開きがあります。そして、日本の幼児教育は、安心・安全や、見守りや子どもを尊重し、子どもの気持ちを受容するようなやり取りがなされている点は海外と比較してもかなりレベルが高いのですが、微細運動や造形、積み木や自然科学に関連する遊び、数字に触れる経験などの「学びに向かう力」を育てるところには課題があります。こうした活動を家庭でも補完できるとよいかもしれません。

4. 習慣形成と未来への想像を促すことで、子どもの意欲をかき立てる

―幼少期に子どもに何をやらせるか、時間の使い方が重要なのですね。

親の時間の使い方について、16の欧米諸国の生活時間調査を用いて、国によらず、親の時間投資にある共通のパターンがあることを見出しています。それは、多くの国で学歴の高い親の方が子どもの勉強や体験に使う時間が長くなる傾向があることです。そして多くの研究が、親が子どもに使う時間は、それが勉強か体験かによらず、子どもの認知能力を高めることを示しています。しかし、この時間投資の効果は、子どもの年齢が小さい時のほうが高く、年齢とともに徐々に小さくなっていきます。子どもたちは大きくなるにつれ、自分自身でどのように時間を使うかについて主体的に意思決定をするようになっていくからです。
もう1つ、子どもが小さいうちに親が取り組んでおくべきこととして、よい「習慣」を身に付けさせるということがあると思います。アメリカの小学校で、子どもたちが給食の時に果物や野菜の小皿を選ぶと、学校内の売店や本屋で使える約50円分のトークンをもらえるようにしたのです。少額の小遣いによって、小学校で野菜や果物を食べる子どもの割合は2倍に増加し、3か月後に小遣いが得られなくなってもその効果は持続し、野菜や果物を食べる習慣がついたことが報告されています。私たちは、自分が取っている行動が、自分の習慣を形成することにつながるかどうかをあまり意識することはありません。しかし、今日の行動を「良い習慣」につなげる第一歩とすることは非常に重要です。

タブレット学習は一人ひとりに合った学びを実現。子どもの学習能力を伸ばす

―タブレット教材についてどのようにお考えですか。

タブレット端末で学ぶことによるメリットは、「個別最適化」を実現しやすいことです。ただタブレット端末を配布しただけでは意味がなく、海外で行われた有名な研究では、「個別最適化」を実現する教育ソフトをインストールしたコンピュータでの学習は、非常に高い効果を上げていることを明らかにしています。特に、算数・数学のように積み上げ型の科目は、一度どこかでつまずくと後からの挽回が難しいという課題がありましたが、タブレット教材を用いることで、過去のつまずきを解消できるというのはメリットが大きいと思います。

タブレット通信教育『スマイルゼミ』は、“学力を伸ばす4つのポイント”を搭載
学習習慣の定着と個別指導式学習を実現

「スマイルゼミ」は、2012年にスタートしたタブレットで学ぶ、幼児・小学・中学生・高校生向けの通信教育です。発売当初より、やり抜く力や意欲、忍耐力といった「非認知能力」の重要性に着目し、学習習慣が身につく様々な学習方法や教材を提供しています。「個別指導式」も採用し、タブレットに蓄積された学習データを分析することで、一人ひとりの理解度に合った最適な学習プランと教材で効率的に学べます。

  • データに基づいた学習サイクル

朝学習をしているお子さまは学習習慣も身についている、という傾向から、「朝学習イベント」を企画しました。
学んだ結果やごほうびが得られるタイミングとモチベーションの関係性も分析し、達成感をより強く感じ、学習のモチベーションアップにつながる設計を行っています。

  • 個別最適化

お子さまの学習データを分析し、一人ひとりに最適な講座を届ける「きょうのミッション」で、偏りなく学習します。
テストの目標点数と、実力との差を埋める教材を配信する「オーダーメイド学習」で、お子さまの学力を伸ばします。

  • 非認知能力を高める仕組み

きょうのミッションを毎日クリアすると、「スゴいキミ!」で全国のスマイルゼミ会員の前で表彰されます。ランクがシルバー、ゴールド、プラチナと上がっていき、選ばれ続けるうれしさで学習が継続し、忍耐力や自尊心も養われます。

  • 習慣形成

週の目標講座数を達成するとごほうびをもらえる「ウィークリーミッション」で、学習の習慣化を促し、学力向上に寄与しています。タブレットの中でのお楽しみやモチベーションアップの仕掛けにより、無理なく継続できる仕組みを搭載しています。

  • 幼児・小学生・中学生・高校生コースでそれぞれ機能が異なります。

プロフィール

中室牧子(なかむろ・まきこ) 慶應義塾大学総合政策学部 教授
デジタル庁 デジタルエデュケーション統括
公益財団法人東京財団政策研究所 研究主幹

慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日本銀行、世界銀行等を経て現職。コロンビア大学にてMPA、Ph.D.取得。専門は教育経済学。規制改革推進会議、産業構造審議会等で有識者委員を務める。著書はビジネス書大賞2016準大賞を受賞し発行部数30万部を突破した「『学力』の経済学」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、 週刊ダイヤモンド2017年ベスト経済学書第1位の「『原因と結果』の経済学」 (共著、ダイヤモンド社)など

プロフィール 中室牧子(なかむろ・まきこ) 慶應義塾大学総合政策学部 教授

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